中編では、看護師が助産師になるには、どのくらい期間がかかるのか、どのような学び方をすればいいのか、助産師国家試験の合格率、といった内容を詳しく説明します。
【「病院の出産」と「助産院の出産」の違いは?】
妊娠がわかってからの、妊婦検診チェック(体重・血圧・尿検査・浮腫・子宮底長・腹囲・胎児の状態)や採血、エコー検査などは病院も助産院も同様に行なわれます。
大きな違いは何かといえば、病院での出産は“医療者主体での管理”という点です。総合病院ならば、糖尿病や高血圧など合併症を抱えている妊婦も、しっかりと現状を踏まえた対応ができます。
また生まれてきた赤ちゃんに問題があったとしても、すぐ治療を行えるNICU(新生児集中治療室)を備えた病院ならば治療がすぐ行えます。
産科以外にも各科があれば、高齢出産や何かしらのリスク、突発的なアクシデントなどに対応できます。
これらが病院で出産する時のメリットといえるでしょう。
ただし(病院によっては)、分娩方法に選択肢が少ないことや、母子同室ができないこと、立ち合い出産ができないことがあるなど、妊婦の希望が通らないこともあります。
病院によって事情が異なりますので、あらかじめ聞いておくようにしてください。
蛇足ですが、和痛分娩(陣痛が強くなってきた時に鎮痛薬を使用する方法)、無痛分娩(硬膜外麻酔を使い陣痛の痛みに応じて使用する方法)、座位分娩(椅子に座っているようなスタイルで分娩する方法)などが行える病院もあります。
和痛分娩と無痛分娩は、実は定義がはっきりと決まっていません。
麻酔を使用する分娩をすべて「麻酔分娩」と呼んだり、呼吸法などのリラクゼーションを使った分娩を「和痛分娩」と呼んだりと、医療者によって捉え方は異なります。
いずれにしても病院によって分娩も特性がありますから、あらかじめよく調べること、よく話を聞くことをお勧めします。
医師が常駐していない助産院では医療行為を行うことはできませんから、助産院での助産師は「お産の介助をする」という立場になります。
帝王切開、多胎出産、逆子出産などは、助産院で出産できないほか、子宮筋腫、子宮がんなど婦人科の疾患を持っている人もNGです。
また、体外受精で妊娠した場合も助産院での出産は望めません。
これらは、ハイリスク妊娠に分類されるためです。行えるのは正常分娩のみ。
では、助産院で出産するメリットは何でしょう?
医師主導ではなく“妊婦主導でお産が行われる”という点です。
助産院での多くには分娩台がありません。
自分で分娩の姿勢を決めることができます。
つまり、フリースタイル分娩。
楽だと感じることができる姿勢で臨めるのは、母親にとっても赤ちゃんにとっても、負担が軽減されると言われています。
陣痛やいきみを逃しやすくなり、産道を緩める効果も期待されているからです。
スムーズにお産が進めば、産後の育児に向けての体力を温存することもできます。
フリースタイルの中には、水中分娩(専用の温水プールなどの水中で出産を行う方法)、ソフロロジー分娩(妊娠中からソフロロジー式のエクササイズやイメージトレーニング、呼吸法を用いて、リラックスした状態で出産に臨む方法)を用いる助産院もあります。
意中のところがある人は、良く調べることをお勧めします。
【助産師の魅力】
◇ その1
女性の一生をサポートできること。
女性だからこそ、力になれるという場面が多々あります。
たとえば、性の悩み。
性は、とてもデリケートな問題です。
男性の産科医に話せない内容だったとしても、同性の助産師には話やすい一面があります。
きめ細やかな配慮をしながら話を聞けるのも助産師ならでは。
同じ女性として理解を示しながら、的確なアドバイスを行えるのが良いところです。
妊娠や出産も、客観的な目線で助言を伝えられます。
相談者の吹っ切れたような表情に変わる瞬間は、遣り甲斐を感じる時でしょう。
◇ その2
働き方を選べること。
家庭を持ったり、赤ちゃんを育てたりしていると、働きづらさを感じることがあります。
特に看護師は夜勤もあり、ハードな仕事に身も心も疲れ気味。
しかし、助産師であれば、ワークライフバランスに合わせた働き方に変えることが可能です。
助産師の免許と経験を活かして、助産所、産後ケアセンター、不妊専門治療クリニック、地域の子育て支援活動、乳幼児健診の補助など、働きやすい場所がいろいろあります。
家庭との両立や子どもを育てながらでもOKという職場を探しやすいといえます。
◇ その3
開業権を持っていること。
助産師は、医師や歯科医師と同様に“開業権”があります。
看護職の中で、唯一独立して開業ができるのです。
自ら助産院を開き、お産のサポートを行うことが可能です。
また、入院施設を持たない出張という形態も可なので、出張助産師という働き方もできます。
他に、母乳ケアサロンのような地域密着型の仕事も行えます。
専門知識を蓄え、技術を磨けば、どんどん自由な働き方が拓けるというわけです。
【院内助産と助産外来】
助産師がお産を行うと聞けば、真っ先に助産院を思い浮かべますが、最近は病院の中で助産師が活躍することが増えてきました。
平成30年に厚生労働省が「院内助産・助産師外来ガイドライン2018」(ガイドライン改定)を発表しました。
これを発表する背景には、医師不足や分娩施設の減少があるほか、妊産婦の妊娠・出産・育児に対する多様なニーズに応えるためというのがあります。
「院内助産」と「助産外来」、まだまだ聞きなれない言葉ですが、どのようなことを行うのでしょうか。
院内助産とは、分娩を目的に入院する産婦及び産後の母子に対して、助産師が主体的なケアの提供を行う方法・体制をいいます。
わかりやすくイメージするならば、病院内にある助産所ではないでしょうか。
正常分娩であれば助産師が赤ちゃんを取り上げますが、何か問題が起これば、産科医がすぐに帝王切開などの緊急対応も行えます。
助産院から病院へ搬送したり、逆に産科医に来てもらったりする手間が省けるというわけです。
助産師外来とは、妊婦・褥婦の健康診査や保健指導を助産師が行う外来をいいます。
妊婦検診は全部で14回ほどありますが、そのうちの3回を産科医が受け持ち、それ以外を助産師が担当します。
振り分けるのは、妊娠経過中のリスクを産科医も助産師も把握し、双方で連携を取りながら産科医療チームとして妊娠経過を診ていくためです。
これにより、妊婦は助産師と健診時間に長めに話すことができるようになりました。
病院にもよりますが助産師が担当する1回の健診は30分~1時間ほど。
産科医に聞けなかったことや、聞きにくかったことでも、助産師に質問しやすくなりました。
正常分娩であれば、助産師が赤ちゃんを取り上げ、リスクが生じる場合は産科医がお産を担当します。
互いの長所をミックスさせた方法といえるでしょう。
【助産師になるにはどうすればいいのか?】
助産師になるには、国家資格で看護師免許と助産師免許の2つが必要です。
現在、看護師として働いているならば、助産師の学びを終えた後に助産師国家試験へ挑み、合格すれば良いのです。
方法は2つあります。
1年制の助産師教育課程がある助産師養成所で1年間勉強を行う方法と、大学院(2年)などで助産師養成課程を修了する方法です。
【助産師養成所で学ぶ内容】
たったの1年間で、助産師の基礎を全て学ぶのですから、とてもハードな勉強になります。
どのよう事を学ぶのか、主だった内容を紹介します。
基礎助産学・・・助産学概論、女性の人権、人間関係論など。
助産の基礎を学び、広い視野を持つ助産師になれるよう知識を深めるのが目的。
助産師の歴史や社会的役割、人間関係なども学びます。
助産診断・技術学・・・助産師として技術の習得。
健診の仕方、分娩の介助、沐浴や授乳などの指導など、妊娠期から産褥期までのすべてを学びます。
また、性教育や更年期障害など女性のライフサイクルの応じた助産技術の習得も行います。
地域母子保健・・・地域の母子保健活動や地方行政の在り方などについて学びます。
助産管理・・・法律や、より良い業務を行うための産院や産科の在り方を学びます。
臨地実習・・・実際の医療機関や保健機関などで、実践の学びです。実習先は、周産期センターや助産所など。妊婦検診、分娩介助、産褥介助など、知識と技術をしっかりと自分のものにする時間です。
2023年の「助産師」国家試験の合格者数は1,977人(合格率95.6%)。
ちなみに2022年は2,077人(99.4%)でした。
多くの看護師が助産師資格を手に入れ、巣立っています。
1年間、養成所でしっかりと学べば、合格する可能性が高いといえます。
助産師国家試験は、筆記試験(マークシート)です。
出題傾向としては、状況設定問題の配点が高め。
そのため、文章読解力を身に付け、問題の意味をとり間違えないようにしましょう。
状況をしっかり読み、想像する能力が必要です。
また、わざと惑わせるような問題も出ることがあるので、落ち着いて回答してください。
マークミスをしないこと、時間配分に気を配ることも忘れずに!
【まとめ】
さて今回は、看護師が助産師になるためにはどのような学び方をすればいいのか、助産師国家試験などについてお話ししました。
後編では、助産師に向いている人・向いていない人。
話題のアドバンス助産師とはどのような助産師か?といった内容を説明します。