後編では「学校保健師」と「病院保健師」について説明します。
保健師は身体の健康を推進する役目ですが、今は心の健康もクローズアップされています。
特に、学校という枠組みがある社会では、生き辛さから保健室登校をする生徒も少なくありません。
そこでの保健師はどのような役目を果たすのでしょうか?
病院保健師も、自宅療養をする人にとって重要な仕事があります。
高齢化社会を支える病院保健師の仕事も併せて紹介します。
【保健師は働き方がたくさんあります】
◇ 学校保健師
学校保健師は、小学校・中学校・高校・短大・大学・専門学校などに通う生徒や教職員の健康管理を行う仕事です。
似たような名前の仕事に、養護教諭があります。
どちらも「保健室にいる先生」です。では何が違うのでしょう?
養護教諭は養護教諭一種免許もしくは二種免許を取得しています。
国公立の学校では、養護教諭だけが働けます。
教諭という名の通り“先生”ですから、道徳や保健の授業を受け持つことがあります。
一方、保健師は保健師の免許を取得した者で、私立の学校での就労となります。
授業を受け持つことはありません。
しかし、それ以外はどちらも、ほぼ同じ業務内容です。
主な仕事は、病気や怪我をした生徒や教職員の応急処置です。
もちろん救急用品の点検や備品の準備といったことも行います。
また自分で自分の健康を守れるように生徒に向けた講習会を開くこともあります。
学生時代「保健便り」とか「保健室から」といった配布物を見た経験があると思います。
これは、養護教諭や保健師が作っています。
風邪やインフルエンザなどが流行る季節に、手洗い、うがいなどを呼びかけたり、最近は感染症を徹底するために、マスクの脱着の仕方、ソーシャルディスタンスの取り方などの指導が書かれたりしています。
学級閉鎖が起きないように、細心の注意を払い、施設内の衛生管理も学校保健師の業務となっています。
学校では春に、身体検査が行われます。
その結果を受けて、要注意の人には、健康維持へのアドバイスも行います。
これら実務の他に、保健師はメンタルヘルスケアにも気を配っています。
最近は、この比重の方が重いようです。
学校生活の中で、いじめ、不登校、性の問題行動、拒食症、過食症、うつ状態、集団の不適応など、多くの課題を抱える子どもが増えているからです。
保健室は、言わばシェルター。
学校保健師は、相談しに来た生徒の気持ちに寄り添わなければいけません。
親とも友達とも違う立場の人間として信頼してもらうためには、コミュニケーションスキルが必要です。
たとえば傾聴力。
生徒はこれまでの辛い気持ちや考えを聞いてもらい、共感してもらいたい、と望んでいます。
つまり、じっくり話を聞くことこそが生徒の支援になるのです。
また、温かな声かけ、言葉遣い、表情、雰囲気作りなども大切な要素。
「大変でしたね」「よくやってきましたね」など、これまでの苦労を認めたり、ねぎらう気持を伝えたりすることが、とても重要です。
学校保健師は「何がだめだったのか」を追究するのではなく「これからどのように解決するか」という視点で生徒の言葉に傾聴し、生徒と共に考えていきます。
必要ならば、行政機関、支援機関、医療機関といった窓口があることを生徒に伝えます。
悩む生徒が希望を持てるように安心感(出口があること)を伝え、適したタイミングで情報を与えていく、それが学校保健師の役割です。
しかし、生徒とコミュニケーションを取り難い件もあります。
それは虐待を受けている生徒です。
虐待には、身体的虐待、性的虐待、ネグレスト、心理的虐待などがあります。
その多くは密室的状況の中で行われ、本人はその事実を外部の人に伝えようとはしません。
また年齢が低いと、虐待を受けていることにも気づけていない場合があります。
学校保健師は、生徒の声なき叫びに気づいてあげられる最後の聖域です。
外傷(あざや傷など)、奇妙な行動、自傷行為の痕、感情の不安定さなど、生徒の言動をよく観察し、虐待の疑いがあるときは、速やかに学校(担任や学年主任など)と児童相談所へ連絡し、連携をとりながら問題解決へと行動を起こします。
もうひとつ、ヤングケアラーもコミュニケーションがとり難い生徒です。
ヤングケアラーとは、障害や病気などケアを要する親や祖父母・兄弟の、世話・介護・家事などを日常的に行っている18歳未満の子どもを指します。
学校はヤングケアラーを発見しやすい場所です。
学校に来ない、来ても授業中に寝ている、常にバイトをしている、いつも疲れている、言葉数が少ない、学力が足りない、顔色が悪いといった様子をチェックするなど、該当する生徒を早期に発見し、情報を学校と共有し合い、適切な支援を考えていきます。
生徒が退学や不健康な生活に陥らならいように、学校保健師は感情面のサポートも含め、温かな支援を行う必要があります。
ところで、今は生徒だけでなく、教員のメンタルケアも考えなくてはいけない状況になっています。
生徒と教師の間で起きるセクシャルハラスメント(性的嫌がらせ行為)や、アカデミックハラスメント(教師の立場を利用した、嫌がらせ行為)なども増えだしているからです。
こちらも速やかに対応しなくてはいけません。
このように学校保健師は、時代に合わせて起こる様々な問題への柔軟な対応が求められます。
とても奥深い仕事といえます。
学校保健師は、社会人を相手にするのとは違う難しさがあります。
というのも、生徒は思春期・成長期ですから生徒との距離感は微妙に難しいのです。
しかし、入学してから卒業まで成長の節目に立ち会い、その一端を見守ることができるのは、他の保健師にはない魅力といえます。
子ども好きな保健師にとっては、とても遣り甲斐のある仕事といえるでしょう。
働き方は、平日勤務、土・日曜休み、残業少なめ、夜勤なしが一般的です。
学校にもよりますが、春休みや夏休みなどの長期休暇を取れる学校もあります。
また遠足や修学旅行に添乗することもあります(外部委託の場合もあり)。
つまり、自分の生活を大切にしながら、就労できる仕事といえます。
学校保健師は、私立のみの勤務なので、希望する私立の学校が募集をかけていればすぐ応募してください。
もともと学校保健師の求人は少ないです。
ハローワークに載ることもありますが、やはり学校のHPをこまめにチェックし、タイミングを逃さないようにしましょう。
また、積極的に学校へ問い合わせをすると、まだ表に出ていない情報をキャッチできることもあります。
そして、採用試験と面談に合格できれば、学校保健師になれます。
学校側は、保健師としての実力のほかに、話しやすい人を選ぶ傾向があります。
たくさんの学生と触れ合う職業だからです。
そのためにはスクールカウンセラー、心理カウンセラー、臨床心理士といった資格(ノウハウ)を身に付けておくと、合格率があがるでしょう。
ちなみに、国公立の学校の保健室で働きたい人は、養護教諭の資格を取得し、都道府県で行われる教員採用試験を受けてください。
合格すれば、公務員として保健室で働くことができます!
◇ 病院保健師
病院保健師とは、病院、健診センター、訪問看護ステーションといった医療機関に勤める保健師のことです。
どこの病院にも病院保健師が居るわけではありません。
病院保健師を採用しているのは、総合病院や精神科のある病院、訪問看護を取り入れている病院などです。
役割は、病院で働く医師、看護師、事務員はもとより、入院している患者とその家族、病院に関わるすべての人の健康を守ること。
保健師なので「病気や怪我を予防し、人々の健康維持」が基本スタンスですが、採血、血圧測定といった医療行為を行うこともあります。
看護業務と兼務する施設もあるという意味です。
病院保健師にとって健康診断(実施・予防指導)のほかに、もうひとつ大事な仕事は、感染症の予防活動です。
病院はさまざまな患者が集まる場所ですから、最も感染が拡大しやすい場とも言えます。
そのため院内の衛生状態を良好な状態に保ち、感染をさせない対策を施す必要があります。
総合病院では、伝染病対策室が設置されていて、その中に感染予防対策委員会が設けられています。
病院保健師は感染管理認定看護師とともに感染症の予防活動にあたります。
先に「入院している患者とその家族」と説明しましたが、入院中の患者だけでなく、外来に来た患者、その家族、退院して在宅で治療を続ける患者も含みます。
病院保健師は病院と関わるすべての人々の生活をサポートするのです。
たとえば、退院後に自宅で療養を始める患者の場合、その家族を交えて話し合います。
地域連携室(退院後の支援計画をたてるところ)とも連絡をとり、医師や看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーといったさまざまな視点を持った人々とも連携をとり、どのようにしたら患者が健やかに過ごせるのかを考えます。
そして訪問看護ステーションや保健センターといった病院以外の施設・サービスにつなぎます。
退院してからも厚いサポートがあることに、患者も家族も安心することでしょう。
病院保健師は、在宅診療を支援する(道筋をつくる)役割も果たしているのです。
ほかに、小児科では予防接種のサポートに入ったり、保護者に栄養指導、育児指導などを行ったりします。
精神科・心療内科では患者やその家族に生活指導やメンタルヘルスケアを行います。
健診センターが付属する病院の病院保健師は、健康診断に関わる業務を任されることもあります。
受診者の対応をし、診断後に病気予防のアドバイスを行います。
手が足りない時は看護業務のサポートに入るほか、内視鏡検査などで気分が悪くなってしまった人に、医師の指示に従った医療処置の補助を担当することもあります。
健診センターでの仕事はシンプルで覚えやすく、(転職者に対して)研修やオリエンテーションが用意されているところもあります。
病院に併設されている訪問看護ステーションの病院保健師は、病気、障害、高齢などさまざまな理由で自宅療養する人に、医療サービスの提供を行います。
「訪問看護」と「訪問介護」どちらも自宅を訪問するのは同じですが仕事が異なります。
訪問看護は、保健師または看護師といった医療資格を持った者が、患者のケアや医療処置を行います。
訪問介護は、食事や入浴といった生活支援を行うものです。
病院保健師は、主治医の意見に基づき、療養環境の確認やアドバイスを患者に行い、そのご家族にも精神的なケアや技術指導をします。
保健師の仕事は予防医療ですが、訪問看護ステーションで働くとバイタルチェックや注射といった医療行為、医療機器の管理も行うことがあります。
患者が認知症や終末期ケアが必要な場合もありますので、状況に応じたさまざまな対応が求められているのです。
訪問看護は、患者一人ひとりとじっくり向き合いたいという人に向いています。
病院保健師の求人はすごく少ないです。
退職する人が少ないため空きがないからです。
もともと休みが取りやすく、残業も夜勤もほぼない上に、比較的安定して働けます。
求人を見つけるためには、医療系の転職エージェントに登録するのがいいでしょう。
非公開求人の中に含まれていることが多いです。
もし病院保健師の求人があったとしても、内容をよく確認してください。
病院の状況によっては、病院保健師募集となっていても、看護業務に近いことが多々あるからです。
看護の兼任はNGの人は、注意が必要です。
病院保健師は夜勤のない職場ですが、看護師と同様に夜勤があることも少なくありません。
夜勤を避けたい人は、必ず詳細をチェックし、夜勤がない病院を選びましょう。
ところで最近、保健師として専従する「臨床保健師」という働き方も見られるようになってきました。
これは患者の入院が必要かどうかを判定する業務に従事する仕事。
しかし、この仕事はまだまだ限られています。
【まとめ】
日本は高齢化が進み、介護状態になることを防ぐ意味でも保健師のニーズは増える傾向にあります。
保健師は医療の中でも身体の健康を扱うだけでなく、心の健康も考え道筋を作る仕事です。
子育てが一段落し、保健師として働きだす元看護師も増えています。
子ども、近所付き合い、ママ友といった対人の経験スキルが活かされる職業ともいえるでしょう。
キャリアアップの選択肢の1つとして考えてみるのはいかがでしょうか。
コロナのような新しい感染症が流行らない限り、定時帰宅、土・日曜休み、残業・夜勤なし、が基本ですから、ライフワークとして長く続けられる仕事です。
予防医療の求人は、これからも右肩上がりと予想されます。
保健師の資格を取得して、新しい生活をスタートさせましょう!
蛇足ですが、NPO(特定非営利活動法人)、NGO(非政府組織)JICA(国際協力機構)といった組織・機構では、保健師として活動してきた経験や専門性を活かし、発展途上国で母子保健活動や衛生教育などの活動を行っています。
志の高い人は、そのような活動の場があることを視野に入れてみるのもいいでしょう。
あなたの能力を世界の人々のために活かしてください!